給料のデジタル払いが可能になる背景
近年、キャッシュレス決済、電子マネーの普及が進んでいることから、このたび厚生労働省では、いわゆる「デジタル払い」(電子マネー等による給与の支払)を認める方向で手続をすすめることになりました。
労働基準法では原則として賃金は通貨で支払うこととされています。(いわゆる現金払い)
しかし、労働者が同意し、労使協定を締結した場合は銀行口座などへの賃金の振込が認められています。法律上は「原則は現金払いで口座振込は例外」という立て付けになっていますが、実務的には現金払いよりも口座振込の方が一般的になっていると思います。
これに加え、昨今の電子マネーの普及に対応し、「電子マネーでの給与を支払ってもらいたい(又は「支払いたい」)」という社会的なニーズに応える形で今後法改正される見込みです。
賃金のデジタル払いのポイント・留意点
- 対象となる電子マネー等は、厚生労働大臣が指定した資金移動業者(○○Pay、など)のみです。
- 指定された電子マネー等(資金移動業者)の一覧は、指定後に厚生労働省のウェブサイトに掲載される予定です。
- 労働者の同意と労使協定が必要です。
- 現金化できないポイントや仮想通貨での給与支払いは認められません。
- 給与のデジタル払いは給与支払い・受け取り方法の選択肢のひとつです。必ずすべての従業員に対する給与支払い方法を変更しなければならない、ということではありません。
- 従業員が賃金のデジタル払いを希望しない場合は、これまで通り銀行口座等への振込や現金支給により給与を受け取ることができます。
- 希望しない従業員にデジタル払いを強制してはいけません。(強制した場合は、労基法違反となり罰則の対象となります。)
- 賃金の一部をデジタル払いで受取って、その他は銀行口座などで受け取ることも可能です。
- 受け取り額は、1日あたりの払出上限額以下の額とする必要があります。
- デジタル払いの資金移動口座の上限額は100万円以下に設定されています。上限額を超えた場合はあらかじめ従業員が指定した銀行口座などに自動的に出勤されます。この際の手数料は従業員の負担となる可能性がありますので、トラブル防止のために指定資金移動業者に確認の上、従業員ともよく話し合っておく必要があると思われます。
- ATMや銀行口座などへの出勤により、口座残高の現金化(払い出し)をすることができます。少なくとも毎月1回は従業員の手数料負担なく、指定された電子マネー等の口座から払い出しができます。ただ、払出方法や手数料は電子マネー等の種類によりさまざまですので、これも確認して従業員と話し合っておくことをおすすめします。
- 口座残高の払い戻し期間については、最後の入出金日から少なくとも10年間は、申し出などにより払い戻してもらうことができます。
万一不正取引や業者が破綻した場合は?
不正取引(心当たりの無い出金など)が起きた場合はどうなるの?
口座の乗っ取りなどにより電子マネー等の口座から不正に出金されてしまった場合、口座を所有する従業員に過失がないときは損失額全額が補償されます。従業員に過失があるときの保証については個別のケースによります。また、損失発生日から少なくとも30日以上の通知期間が設定されていますので、不正取引があった場合はすみやかに指定資金移動業者(使っている電子マネー等の業者)に問い合わせましょう。
業者が破綻した場合は?
万が一従業員が使っている電子マネー等の業者(指定資金移動業者)が破綻したときは、保証期間から弁済が行われます。
今後の流れ
給与の電子マネー等による支払い(デジタル払い)実施までの流れは以下の通りです。したがって、いますぐデジタル払いができるわけではありません。今後厚生労働省からアナウンスがあれば当ホームページでもお知らせしていく予定です。
2023年4月~
資金移動業者(電子マネー等の業者、○○Payなど)が厚生労働省に指定申請をします。その後、厚生労働省で審査が行われます。(数か月かかる見込みです。)
厚生労働大臣が電子マネー等の業者の指定後
指定された電子マネー等の業者が厚生労働省のホームページに公表されます。
電子マネー等での給与支払いを行う会社は、事業場ごとに労使協定を締結します。
労使協定の締結後
会社が個々の従業員に給与の電子マネー等での支払い(デジタル払い)について説明し、従業員が同意した場合には給与のデジタル払いを開始します。
【参考】厚生労働省リーフレット「賃金のデジタル払いが可能になります!」