月刊人事労務

メンタル不調社員への職場の対処方法


メンタル不調は、誰もがなり得る

メンタルヘルスの不調というと、従来は「特別な病気」だととらえがちでした。しかし現在、メンタル不調は「誰もがなり得るものである」というように意識が変わってきています。(生涯に1度はうつ病になる人の割合は、15人に1人との調査結果もあります。)職場でメンタル不調を感じている社員は少なくなく、進行すると休職や退職につながり、企業業績に悪影響を与えるだけでなく、対応次第ではメンタル不調社員から会社が訴えられるといった法的リスクに発展する可能性も考えられます。

事前にメンタル不調のサインに気付くことでそれを防ぐことはできないのか?

●「勤怠の乱れ」

例えば、これまで定時に来ていた人が、最初は月曜だけちょっと出社が遅れる。それが徐々に、月曜だけでなくて5分・10分の遅刻が増えてくる。そのうち遅刻時間もだんだん大きくなってきて、30分遅れるなどがざらになる。さらには有給休暇を突然取るようになる。欠勤が増え、週5日のうち、3日も出社しなくなる。本人は出社しようと思っているのだけれど、身体がどうしても言うことを聞かないという状態です。そんなふうになったら、明らかにメンタルの不調を疑ったほうがいいでしょう。

●「体調不良の訴え」

食欲不振、睡眠障害。風邪をひきやすい、頭痛がとれない、腰痛肩こりが悪化する、胃痛が治らない、吐き気がする。……これらはもちろんメンタル以外の病気の場合もありますが、メンタル不調に伴う症状であることも多いのです。

●「仕事のスピードや質が落ちる」

いつもならできていたことができなくなってきます。取引先に仕事の電話がかけられない。定型書類なのに満足に作れない。単純なミスが増える。気づけば手が止まっていて、仕事の効率が落ちているなどがわかりやすいサインです。

●「普通でない言動」

気分の落ち込みが激しく、何をしても楽しそうでない。ちょっとしたことで神経質になったり、いらいらしたり、感情の起伏が激しくなったり、ふとしたことで、泣き出してしまい、涙がとまらなくなるということもあります。普段穏やかな人が、突然声を荒げることがあったりする、盗撮・盗聴・嫌がらせを受けているなどの被害妄想的な発言、独り言が出るなどは精神疾患の兆候かもしれません。

周囲が気づいたときに、具体的にどのように対処するのがよいか?

●上司または周囲の人が声をかける

上司が「客観的なデータをもとに」、「具体的に」指摘するということです。

例えば、「最近勤怠がこのように乱れているけれど、どうしたの」とか、「いつもはこういうミスはしないのに、最近立て続けにこういうミスが何回もあったけれど、どうしたの」という具体的な事実の指摘が大事です。周囲の人がいつもと違う同僚や部下の様子に気づくことで、医療機関への受診などの適切な措置を行います。

●医師の診断を受けさせる

医師の診断を受ける理由としては

  • 精神疾患か否かが明確になる。
  • 症状が悪化する前に、正しい治療を開始できる。
  • 社員を休ませるべきか、休ませるとして期間はどのくらいかについて医師の意見を聴くことができる。

●本人が病院の診断を受けたがらない場合

  1. 社員の家族に事情を説明して、病院への付き添いを依頼する。
  2. 会社で心療内科あるいは精神科を受診するように業務命令(受診命令)を出す。

なお、症状の程度によっては、心療内科あるいは精神科を受診するまでは、会社への出社を禁止する「自宅待機命令」を出すことが必要です。

●診断書の提出

医師の診断を受けることができたときは、社員に診断書を提出させましょう。

診断書には、病名のほか、次の項目を記載してもらうことが必要です。

  • 仕事をすることが可能か、それとも休業を要するか。
  • 休業を要する場合は、休業を要する期間。

医師から「休業を要する」と判断されたとき、会社の対応は?

●休職制度の説明を社員に行う

  1. 休職の期間
  2. 休職に関する就業規則の規定の内容
  3. 休職中の給与に関する事項
  4. 休職中の社会保険料の負担に関する事項
  5. 傷病手当金に関する事項
  6. 休職中の会社との連絡方法
  7. ⑦ 自立支援医療(精神通院治療)制度の案内

休職を命じるには、社員との合意、または就業規則等の根拠規定が必要となります。なお、休職期間中の賃金については「ノーワーク・ノーペイの原則」から、無給としてもかまいません。

●会社の労務環境に問題がなかったかを確認する

精神疾患は、私生活上のストレスで発症することもありますが、職場の環境や過重労働により発症するケースもあります。労働契約上、会社と管理職は社員に対する安全配慮義務を負っています。社員の長時間労働や健康悪化を知りながら、具体的な業務軽減措置を取らなかった企業は安全配慮義務違反を問われることになります。

  1. 月の残業が「80時間」を超えるような長時間労働がなかったかどうか。
  2. 上司から過度な叱責がなかったかどうか。
  3. セクハラがなかったかどうか。
  4. 同僚からのいじめがなかったかどうか。
  5. 業務上、重大な事故やミスを犯し、責任を問われたことがなかったかどうか。
  6. 昇進や配置転換により、ストレスを抱えることがなかったかどうか。

社員に精神疾患の兆候が出たときに会社がやってはいけない対応

●医師から休業が必要という診断書が出ているのに、社員に仕事をさせてはいけない。

医師から休業が必要という診断書が出ているのに社員に仕事をさせることは、社員の精神疾患を悪化させるおそれがあり、会社は社員から精神疾患悪化について損害賠償責任を問われる可能性があります。

●精神疾患が原因になっている言動を理由に解雇してはならない。

精神疾患が原因の場合は、休職させ治療に専念させることが必要です。それにもかかわらず、すぐに解雇してしまという判断をすることは、不当解雇として訴えられた場合、会社側が敗訴するリスクが極めて高くなります。

参考:「職場のメンタルヘルスの正しい知識」日本法令

弊社ニュースレター「月刊人事労務」2019年8月号より

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