1.はじめに
新型コロナ禍の現在、テレワークを導入する企業が多くなっており、柔軟な働き方ができることや、企業にとっても経費の削減等などのメリットがありますが、その一方で直接的な管理が困難なため、9月号の特集にもありますように労働時間の管理が難しい、仕事とプライベートとの区別が難しい、長時間労働になりやすいなどの問題点が挙げられています。そのようなことからテレワークにおける適切な労務管理を行う事が、今後のテレワークの普及にとって大きな要素となります。導入にあたって主な留意点を挙げたいと思います
2.労働基準関係法令に関するもの
(1)労働条件の明示
使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければなりませんので、就労の開始時にテレワークを行う場合においても、就業の場所としてテレワークの場所を明示しなければなりません。また、テレワークの実施と併せて、始業・終業の時刻の変更を可能とする場合には就業規則に記載し明示しなければなりません。
(2)労働時間の適正な把握
通常の労働時間制度に基づきテレワークを行う場合についても使用者は、労働者の労働時間について適正に把握する責務を有しますので「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日、厚生労働省)に基づき労働時間管理を行う必要があります。
(3)テレワークで生じやすい事象
ア.中抜け時間
中抜け時間について、使用者が業務の指示をせず、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合には、開始と終了の時刻を報告させるなどにより、休憩時間として扱い、始業時刻の繰上げ又は終業時刻の繰下げ(就業規則に記載が必要)ること、休憩時間としてではなく時間単位の有給休暇として扱う(労使協定の締結が必要)ことも可能です。
イ.通勤時間や出張中の移動時間
テレワークの性質上、移動中にパソコンなどを用いて業務を行う事が可能ですので、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われる移動時間ついては、労働時間となります。また、午前中だけ自宅やサテライトオフィスで業務を行った後、会社に出社する場合など、勤務時間の一部でテレワークを行った場合についての就業場所間の移動時間は、使用者の指揮命令下におかれている時間であるか否かにより、個別に判断されることになります。
中抜け時間や移動時間の取扱いについては、労働者と使用者の間で合意を得るのが良いでしょう。
(4)事業場外みなし労働時間制
テレワークにより、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な時は、労働基準法第38条の2で規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されます。ただテレワークにおいて使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であるという為には、
- 情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること。
- 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。
を満たすことが必要です。①の使用者の指示に即応する義務がない状態とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行う事が可能である、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態ではないことをいいます
。①と②の2つの要件を満たさなければ、テレワークにおいて「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難」とは判断されません。
(5)休憩時間の取扱い
在宅勤務では、ちょっとした家事や雑用をしているかもしれないので休憩を与えているとみなしていいのではと考えることもあろうかと思います。しかし労働から離れやすい環境に置くことと、労働から離れることを権利として保証していることは別になりますので労働基準法第34条の休憩を与えなければなりません。また休憩は一斉付与が原則ですが労使協定を締結すれば、一斉に与えないことが可能となります。
(6)時間外・休日労働の労働時間管理について
テレワークについても通常の労働と同じく、実労働時間やみなされた労働時間が法定労働時間を超える場合や法定休日に労働を行わせる場合、深夜に労働した場合は、36協定の締結、届出及び割増賃金の支払いが必要になります。このようなことから、テレワークを行う労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、使用者はそれをもって当該労働者の労働時間の把握することが必要です。
(7)長時間労働対策について
テレワークは、労働者が使用者と離れた場所で業務を行うため、相対的に使用者の管理が行き届かない可能性があることから長時間労働を招くおそれがあります。使用者は、単に労働時間を管理するだけでなく、長時間労働による健康障害防止を図ることが求められます。テレワークにおける長時間労働を防ぐ方法としては、次のようなことが考えられます。
- 役職者等からの時間外・休日・深夜におけるメール送付の抑制
- 深夜・休日のシステムへのアクセス制限
- テレワークを行う際の時間外・休日・深
- 夜労働の原則禁止や使用者等による許可制とすること
- 長時間労働等を行う労働者への注意喚起
など。
(8)労働災害について
テレワークを行う労働者については、事業場における勤務と同様に労働契約に基づき事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。また、過重労働対策やメンタルヘルスを含む健康確保や作業環境の整備にも留意してください。
3.労働基準関係法令に関する事以外の留意点
テレワークにおいては、通信費、パソコン等の機器の負担、サテライトオフィス等の利用に要する費用、事業所へ出勤する際の交通費などの生じる費用については、労働者が負担を負うことがあり得ますので、労使のどちらが負担するか、使用者が負担する場合の限度額、労働者が請求する場合の請求方法について就業規則等で定めることが良いでしょう。
(当社ニュースレター「月刊人事労務」2021年1月号 Volume 188 より)
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