月刊人事労務

「有給休暇を消化したいから退職日を変更したい」応じる必要はあるの?

Q.私は企業の人事部長です。昨日従業員が退職日として1週間後の日付を記載した退職届を提出し即時受理しましたが、今日の始業10分前に「有給休暇を全部消化してから退職したい。退職届を撤回し、退職日を変更したい」と言ってきました。退職届は受理済みなので変更は認めないと回答したところ「有給休暇は労働者の権利だ、取らせないのは法律違反だ」と言って納得しません。有給休暇を取得させるために退職日の変更に応じなければならないのでしょうか。

A.人事権のある者が退職届を受理した時点で労働契約の解約となりますので、たとえ有給休暇の消化が理由であったとしても撤回はできません。したがって、会社が認めない限りは退職日の変更はできません。

 自己都合退職(任意退職)の場合、従業員が退職の意思表示を行い、人事権を有する者が受理したときに労働契約の解約が成立します。この場合原則として撤回はできません(民法540条1項、同条2項)。最高裁の判例でも従業員が人事部長に提出した退職届を翌日の始業前に撤回した事件において退職の撤回を認めないと判断しています(大隈鐵工所事件、最高裁三小、昭62.9.18判決)。
 なお、人事権を持つ者に対し口頭で退職の意思表示を行った場合でも意思表示は有効です。しかし言った言わないのトラブルを防止するため、いったん口頭で退職を受理し、できるだけすみやかに(できれば口頭での退職を受理した直後に)退職届を提出させるなど退職意思を書面で確認するようにしましょう。会社所定の退職届がある場合は、日ごろから書式類を所定の場所に備え付けすぐに取り出せるようにしておくべきでしょう。

(当社ニュースレター「月刊人事労務」vol.200 2022年1月号より)

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